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ニュースリリース|2005

2005年11月21日

環境に優しい、安心・安全な農業の実現に向けた
『微生物を生きたまま種子にコーティングし保存可能にする技術』を開発
-野菜をはじめとする土壌伝染性病害防除に向けた画期的研究成果― 

 
このたび兵庫県立農林水産技術総合センター(センター長:前川往亮、所在地:兵庫県加西市)と株式会社サカタのタネ(代表取締役社長:高橋英夫、所在地:神奈川県横浜市都筑区)は、世界初となる『微生物を生きたまま種子にコーティングし保存可能にする技術・ライブコート(商標登録申請中)』(以下ライブコート)を開発、特許を申請いたしました。この技術は、農林水産省が推進する産官連携による“先端技術を活用した農林水産研究高度化事業”として近畿中国四国農業研究センターが中核となり実施している「内生細菌利用を基幹としたレタスビッグベイン病防除技術の開発(実施期間:平成15年~17年、総括責任者:石川浩一)」の一環として得られた技術です。

同技術は、これまで実現不可能とされていた微生物を生きたまま種子にコーティングし保存可能にする技術で、土壌伝染性病害防除の実現を目指すものとして開発しました。土壌に生息する病原菌の作物への感染に対し阻害効果のある微生物自体を直接種子にコーティング加工するというこの技術は、農薬に過度に依存することなく病害防除を図り、環境に優しい安心・安全な農業を実現し、従来の圃場全体を消毒する方法などに比べて極めて省力、低コストでの防除を可能にする、画期的な発明と言えます。

※内生細菌:植物に病気を引き起こさないが、植物に感染し、増殖することができ、表面殺菌を行った植物から分離ができる細菌 


 

写真はレタスの生種子(左)と
『ライブコート』により内生細菌を生きたままコーティングしたレタス種子(右)    

1.植物病害とは
人間の社会でも起こっているような病気の問題(例えば結核やインフルエンザといった病気に感染することによって、命をも失うような問題)が、野菜や花など植物の世界でも起こっています。カビ(糸状菌)、バクテリア(細菌)、ウイルスなどの微生物の感染により作物が発病し、農業生産にでる被害を「植物病害」といいます。ひとたび病気が発生すると、自分の畑以外にも伝染して広がることで地域の畑全体に被害を及ぼしてしまうことにもなりかねません。有名な例としては、1845年、ヨーロッパの一部で流行していたジャガイモ疫病が、同年にイギリス、アイルランドへと広がりました。翌年にも疫病は大発生し、その後の凶作も加わり、当時ジャガイモを主食としていた100万人を超える人びとが餓死しました(江戸時代の天明の大飢饉に相当する規模)。そのことが契機になり1851年から1905年の間に約400万人がアメリカ等に新天地を求めて移住、その中に、レーガンやケネディ元大統領の曾祖父たちもいました。このように過去には大規模な産地が壊滅状態になってしまったケースもあり、植物病害は人類の食糧供給にも関わる非常に大きな問題です。

今日、病害対策としては農薬に依存しているところが大きいのですが、農薬に頼りすぎると病原微生物が農薬に対する抵抗性を獲得し、農薬が効かなくなる現象が起こります。そのため、抵抗性を獲得した病原微生物とそれに効果のある農薬の開発がイタチごっこの状態になってしまいます。そこで、他の防除法を取り入れることにより、農薬の使用を必要最低限に抑え、病害を防ぐことが重要となります。

2. 『内生細菌利用を基幹としたレタスビッグベイン病防除技術』について
近年、日本ではレタスが結球しなくなってしまう「ビッグベイン病」の発生が多発しています。ビッグベイン病は、土壌中のカビである土壌生息菌類(オルピディウム:Olpidium brassicae)により媒介される土壌伝染性のウイルス病(Mirafiori lettuce virus , MiLV)によって引き起こされます。進行すると葉縁部分から葉脈が透け、編み目状になり、やがて葉脈に沿った部分の色が薄くなり葉脈(vein)が太く(big)見えるようになることからビッグベイン(big-vein)と名付けられました。レタス自身は、この病気によって枯死することはありませんが、葉が巻かない(結球しない)ため商品価値が低下してしまいます。また、オルピディウムは耐久器官(休眠胞子)を形成し、土壌中で10年以上生存し、しかもウイルス自体は、オルピディウムの体内で保護されているため、一度発病した圃場での撲滅は難しいのが現状です。この病害は、1934年にアメリカで初めてその発生が報告されて以来、世界中のレタス産地で問題となっていて、国内でも冬春作のレタス産地を中心に主要産地の多くが病害に見舞われるなど深刻な被害が出ています。 

レタスビッグベイン病の防除に向けた戦略としては、自然環境下において病原ウイルス自体を完全に撲滅することは困難なため、防除全体を体系化して対処することが肝要です。通常は、圃場の汚染程度を把握し、その程度に応じて抵抗性品種の導入や、農薬や太陽熱利用の土壌消毒などによる土壌中の媒介菌密度の低減などの方策を立てます。

これら従来の方法にくわえ、第三の防除技術として私たちが取り組んでいるのが『内生細菌利用を基幹としたレタスビッグベイン病防除技術』です。この技術は、内生細菌と呼ばれる微生物の働きに着目したこれまでにない新しい第三の防除技術です。内生細菌は、「植物に病気を起こさないが植物に感染および増殖することができ、植物体の表面を殺菌した上で植物から分離できる細菌」で、 


写真はビッグベイン病の被害を受けたレタスの圃場

種々の生理活性物質を産み出し、これらの働きによって内生細菌に感染した植物が病害虫に対して抵抗性を持つようになったり、環境ストレスに対して耐性を持つようになったりします。この働きに着目し、植物にとって有効な働きをもたらす内生細菌の研究を進め、病原菌に対して抵抗性を発揮する有用細菌として利用する研究開発を進めてきました。いうなれば、私たちの体内において善玉菌を増やして、同時に常在する悪玉菌との腸内の菌バランス(拮抗関係)を改善して健康維持する方法を植物でも行おうとするものです。

内生細菌は、植物体内に存在するため環境変化の影響を受けにくい性質を持つ一方で、特定の菌を選抜し定着化させることが非常に困難とされてきました。しかし、研究開発を通じて定着化の技術を確立するとともに、レタスのビッグベイン病の媒介菌を媒介するオルピディウム菌に対し、高い抵抗性を発揮する内生細菌の選抜に成功しました。今回、選抜した内生細菌は、研究段階での測定結果によるとオルピディウム菌の感染阻害程度が約93%と非常に高く、さらに、ビッグベイン病の抵抗品種との組み合わせによる圃場実験では、ほぼ100%に近い被害回避効果を得ています。 

また、現在、レタスのビッグベイン病以外にも野菜類の苗立枯病、トマトの青枯病、ハクサイ、小松菜などのアブラナ科野菜に多い根こぶ病など、様々な土壌病害についても、それぞれに対し発病抑制効果のある内生細菌を選抜、定着化すべく研究を進めています。内生細菌を用いた生物的防除は、一般普遍化しやすいことから、今後、このような微生物を用いる事例は増加するものと思われます。

3. 『微生物を生きたまま種子にコーティングし保存可能にする技術・ライブコート』について
特定の病原微生物に対し優れた抵抗性を発揮する内生細菌の選抜、定着化に成功しても、実際の農業生産の現場で活用するためには、その応用技術の開発が不可欠です。想定される内生細菌の活用方法としては、圃場に全面散布する方法、植物の株元局所に散布する方法、育苗中の苗に塗布する方法などがありますが、厳しいコスト環境の下で農作物を生産している農家にとっては、どれも労力や経費の点で現実的とは言えません。そこで、従来の播種→育苗→定植→育成→収穫という栽培手順を一切変えずに活用できる方法が『微生物を生きたまま種子にコーティングし保存可能にする技術』なのです。

種子を加工し製品化したものの一つに「コーティング種子(ペレット種子)」があります。「コーティング種子」とは、タルクなどからなるコート剤をコーティングして造粒した種子のことをいいます。おもにベゴニア、トルコギキョウなど極小粒種子、あるいはニンジンやレタスなど不整形種子に処理して播種作業の省力化、効率化を図る他、コート剤自体に様々な成分を調合することにより発芽率の向上といった品質面での効果も付加できるため、農業生産の現場では広く使われています。その製造工程は、大きく分けて造粒→サイズ選別→乾燥→袋充填・保管の4段階です。

内生細菌をコーティングできるということは、内生細菌以外の微生物でも生きたままコーティング種子内に封入することができることにほかなりません。そのために特に工夫した点が、減圧接種技術と低温乾燥技術です。これら一つ一つの技術だけでは、微生物を生きたまま定着させることは困難でしたが、様々な試行錯誤を経て2つの技術を組み合わせることで、世界初の微生物を生きたまま種子にコーティングし保存可能にする技術『ライブコート』の開発にいたりました。

元来、種子は品質維持のためには乾燥保存する必要があり、一方で内生細菌などの微生物は乾燥に弱く死滅してしまうという、相反する性質を持っています。微生物を生かそうとして高い含水率のまま保存すると、種子自体が発芽したり、カビが発生したりするなど、大きく品質が低下してしまいます。そのため、種苗および種子加工の業界では、永らく種子に微生物を生きたままコーティングするのは不可能とされてきました。

この問題を解決すべく開発したコーティング技術『ライブコート』は、種子を減圧処理することにより、微生物を種子に潜り込ませ、次にコート剤で被覆加工した後、低温・除湿条件によりゆっくりと乾燥させることで内生細菌の乾燥ストレスを減らし、生きたままペレット種子内に定着化することに成功したものです。『ライブコート』を施した種子は、病害の防除効果に加え、副次効果としてカビなどの増殖抑制効果もあるため発芽率も非常に高いのも大きな特長です。なお、現在、『ライブコート』を施した種子の貯蔵可能期間(貯蔵条件:摂氏5℃)は約3ヶ月程度ですが、今後、実用化に向けて6ヶ月以上の貯蔵期間を実現すべく、さらなる加工技術の研究開発を進めています。   

 

従来法(左)と『ライブコート』(右)処理した場合のコーティング種子(断面)の違い

現在、前述のとおり、レタスのビッグベイン病以外にも野菜類の苗立枯病、トマトの青枯病、ハクサイなどのアブラナ科野菜に多い根こぶ病などはすでに病害防除に利用可能な内生細菌の研究が進んでいます。このことから、この技術を用いることでレタスのビッグベイン病、トマトの青枯病、アブラナ科野菜の根こぶ病に関しこれらの野菜を単純にすべて『ライブコート』処理したとすると、国内だけでも180億円の市場規模があります。さらに、『ライブコート』は、内生細菌以外の微生物に関しても休眠状態にすることなく応用することが可能なため、世界的な市場を見据えた場合、その規模は無限大に広がる画期的な技術といえます。

4.今回の技術開発に関する特許出願概要について
今回、開発されたコーティング技術『ライブコート』に関しては、本年、兵庫県と株式会社サカタのタネが共同で特許申請をしました。

発明の内容は、レタス等の種子に拮抗微生物を減圧接種すること、拮抗微生物を接種した種子を低温低湿条件下で乾燥させること、またはその両方を組み合わせることにより、拮抗微生物コーティング種子における拮抗微生物の生存率を飛躍的に高めることを可能にするものです。

■ご参考
兵庫県立農林水産技術総合センター
所在地:兵庫県加西市別府町南ノ岡甲1533
代表者:センター長 前川往亮
業務内容:農業技術センター病害虫防除部
作物に対する有害動植物及び農薬についての試験研究、および県下の病害虫の発生予察情報を発信等

  

 

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